時事解説

『0歳児選挙権』の未来:日本維新の会の革新的提案を考察

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 日本の政治に新たな風を吹き込む提案が、今、注目を集めています。
 それは、日本維新の会が掲げる「0歳児選挙権」。この斬新なアイデアは、多くの驚きと議論を呼んでいます。果たして、この提案が目指すものとは何か? その背景にはどのような意図があり、私たちの社会にどのような影響を与えるのでしょうか?

 この記事では、日本維新の会の「0歳児選挙権」提案の詳細を解説し、その意義や影響、そして法的な観点からの考察を行います。また、この提案が実現した場合の社会的な変化についても考察し、皆さんと一緒にこの革新的なアイデアについて深く掘り下げていきたいと思います。

 日本の未来を変える可能性を秘めた「0歳児選挙権」。その全貌と、その背後にある狙いを明らかにし、読者の皆さんにもこの重要な議論に参加していただきたいと思います。

 この記事では以下のポイントについて解説します。

  1. 日本維新の会が提案する「0歳児選挙権」とは?
  2. 憲法的な観点からの考察
  3. メリットとデメリットの分析
  4. 社会的影響と今後の展望
すすき
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『0歳児選挙権』提案の詳細と背景

「0歳児選挙権」の導入を党公約に盛り込む考えを表明した日本維新の会の吉村洋文共同代表(大阪府知事)=9日午後、府庁
令和6(2024)年5月25日産経新聞より

提案の詳細

選挙権の付与対象

 現在選挙権を持っていない0歳から18歳未満の未成年者全てに付与する考えです。

投票方法

 今のところは中高生であっても保護者らが代理投票することを想定しているようです。
 この際、保護者は未成年者の将来を考慮し、子どもの利益を最優先にして投票することが求められます。

提案の目的・目標

「長く生きる子供たちが将来への影響力を持つべきだ。少子高齢化で世代間の政治的影響力が偏っている」

令和6(2024)年5月25日産経新聞より

「子どもが意思表示できない間は親が代理行使するとなったとき、政治家は強烈にそちらの方を向くと僕は思っています」

令和6(2024)年5月16日TBS NEWS DIGより

 上記の吉村知事の発言から分かるように、この提案は、若年層の意見を政治に反映させ、若年層に関する政策が重視されるようになることを目的にしています。
 また、世代間の政治的影響力の差を是正し、社会全体のバランスをとることを目標としていると考えられます。

提案の背景

このグラフが示す10歳代の投票率については41.5%であるのに、20歳代・30歳代より低いかのように作成されていることに注意が必要です。
令和6(2024)年5月13日吉村洋文大阪府知事のXより。

超高齢化社会と若年層の低投票率

 令和5(2023)年の日本の高齢化率は29.1%で世界1位であり、75歳以上人口が初めて2000万人を超えました。そして日本人口の10人に1人が80歳以上となっています。
 一方、日本の出生率は低下しており、同年の出生数(日本人)は4万人減の72.6万人、合計特殊出生率は約1.2%です。これはコロナ禍による婚姻数の減少や雇用の不安定化などが主要因と見られています。

 また、国政選挙の年代別投票率は、令和3(2021)年10月に行われた第49回衆議院議員総選挙では、10歳代が43.23%、20歳代が36.50%、30歳代が47.13%となっており、上記グラフからも分かる通り、若年層の低い投票率が分かります。

 このような状況下で、日本の政治は「シルバー民主主義」とも呼ばれ、高齢者の影響力が強くなり過ぎていると懸念されています。

憲法的な観点からの考察

 それでは、この提案は現在の日本国憲法や公職選挙法などの法的な観点からは実施可能なのかどうか考察していきましょう。

憲法第14条(法の下の平等)・第44条(選挙人視覚の平等)

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

e-GOVより

第四十四条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

e-GOVより

 未成年者に選挙権を与えてその代理権を保護者が行使する場合、他の年齢層との選挙権の平等性が問われることになります。
 選挙の原則として「平等選挙」というものがあります。その平等性を確保しようと、すでに問題となっている「1票の格差」についての裁判が多数起こっています。

 平等選挙が担保されていないと、選挙結果が有権者の意見を正確に反映しておらず、その正当性が疑問視される恐れがあります。

 一方で、平等権を考える際には「絶対的平等」と「相対的平等」という2つの概念があります。

絶対的平等
 全ての人があらゆる面で全く同じ扱いを受けること。
  ex)義務教育の無償化、選挙権の年齢要件など

相対的平等
 状況や条件に応じて適切な区別を認めること。実質的な平等を実現するために、異なる状況や条件を考慮して異なる扱いを行う。
  ex)障害者向けの就労支援、所得に応じた税負担など

すすき
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 近年ではこの相対的平等はアファーマティブアクション(ポジティブアクション)と呼ばれる行動原理となって、歴史的に差別を受けてきた少数派や社会的弱者に対して積極的に機会を提供しています。

憲法第15条(公務員の選定・選挙について)

第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

e-GOVより

 上記の条文を読むと、公務員の選定・罷免と選挙については成年者の持つ権利と解せると思います。
 つまり、憲法では未成年者に選挙権を持たせる想定はしていないということです。そのため、平成28(2016)年に選挙権年齢が18歳に引き下げられる際にも、成人年齢を18歳に引き下げる議論が行われていました(成人年齢引き下げの実施は令和4(2022)年)。

 また、上記第4項に関しても課題があります。
選挙の基本原則に「秘密投票」「自由選挙」「直接選挙」というものがあります。

 物心がまだついていなかったり字を書くことが困難な幼年期ならともかく、どんな理由であれ自分の意思を表明できるようになった子供の投票行動を親が代行できるというのはこれら3つの原則に違反する可能性があります。

 吉村知事は以下のように発信しています。

「将来世代にも政治的影響力があっていい。今はゼロだ。同じ日本人として生まれ、18年もの間、公民権を奪われる理由はない。」

令和6年5月25日吉村知事のXでのポストより

 これは私の推測ですが、仮に0歳児選挙権が導入されれば、憲法第15条を念頭にして、保護者による代理投票には一定の線引きがなされるのではないでしょうか。すなわち、子供自身の意見表明が可能になれば、保護者は代理投票ができなくなるという制度が作られると思います。

すすき
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 どちらにせよ、未成年者に選挙権を与えることになれば、憲法第15条を改正する必要が出てくる可能性があります。

『0歳児選挙権』のメリットとデメリットの分析

メリット:若年層・子育て世帯の発言力増大

 『0歳児選挙権』が導入されるメリットは、初めに紹介した日本維新の会の目的である若年層・子育て世帯の政治的な発言力が拡大することです。

このグラフが示す10歳代の投票率については41.5%であるのに、20歳代・30歳代より低いかのように作成されていることに注意が必要です。
令和6(2024)年5月13日吉村洋文大阪府知事のXより。

 このグラフの世帯別人口から考えると、日本において「高齢者」と定義される65歳以上の人口は約3600万人です。
 一方で、40歳代・50歳代を中間層とした場合、10歳代から30歳代までの人口は約2900万人(15~17歳の人口も含む)です。つまり、選挙権保持者が全員投票に行ったとすると、30歳代までの意見は高齢者の意見には絶対に敵わないということです。

 しかし、30歳代までの人口に未成年者の人口も足すと約4300万人となり、絶対数では逆転することになります。これによって教育、環境、子育て支援や社会福祉の負担など、若年層・子育て世帯の利害に直接関わる政策が優先される可能性が高まります。

 また、未成年者が選挙権を得ることにより、政治家や政策決定者がより幅広い年齢層のニーズを考慮するようになると考えられます。これにより、幅広い視点が政策に反映され、より包括的で多様性のある政治が実現されるかもしれません。

デメリット:不公平と格差拡大

 『0歳児選挙権』が導入されて世代間の投票人口のアンバランスが是正される可能性が上がりますが、一方で、今まで民主主義の根幹とされていた「平等選挙」の原則は確実に崩壊します。
 今度は複数の子供を持つ人と持たざる人との間に不公平が生じてしまいます。

 また、経済格差が助長される可能性があります。
 経済的に恵まれた家庭や教育レベルの高い家庭が、子供の選挙権をより効果的に活用する一方で、経済的・教育的に恵まれない家庭では適切に行使できない場合があります。
 例えば必要な情報へのアクセスやリテラシーに関して前者が有利となりえるでしょう。すると、「高所得者向けの教育施設増設」などの政策は実現され、「子供の貧困対策」などの政策は重視されなくなる可能性があります。

 さらに、世帯所得が低いと「子供を持つ意欲」や「子供を持つ割合」が低くなる傾向にあります。つまり、所得の低い世帯は子供をなかなか持てずに選挙での票数として政治的影響力を持ちづらく、所得の高い世帯は養育可能な子供の数から、ますます強い政治的影響力を持つことができるようになるわけです。

 これでは、実際の経済格差をさらに拡大してしまう可能性があります。

『0歳児選挙権』が導入された場合の社会的影響

 『0歳児選挙権』が導入された場合の社会的影響をまず考えていきます。「メリット」「デメリット」と大差なく見えるかもしれませんが、区分するほうが分かりやすいかと思い、このような構成にます。その後、この提案の今後の展望についても言及します。

良い社会的影響:革新的な先進性

 子育て世帯・若年層の政治的意見が政策に反映された場合、少子化の改善とそれによる地方創生、選挙権行使に向けた早期の政治教育の展開などが考えられ、社会のあり方や教育のカリキュラムがポジティブな方向へ変わる側面があると考えます。
 また、家庭内で政治的な意見交換が活発化して保護者の投票行動を促す作用や、投票活動を通じて社会をより良くしていこうとする世代間の連携強化などが起こるかもしれません。

 さらに国際的な先進性のアピールにもなると考えられます。今回の『0歳児選挙権』は日本維新の会の政策提言『維新八策2022』に「ドメイン投票方式」という形ですでに記載されています。そのドメイン投票方式というのはドイツハンガリーなどで議論され、否決されているとのことです。どちらの国でも、やはり憲法上の懸念、特に政治的平等の観点から否決されたようです。
 このことから、少子高齢化とそれによる世代間の政治的影響力の再調整はどこの国でも議題に上っており、かつ、解決が難しいことが分かります。だからこそ、この方式が世界で初めて日本で導入されれば、国際的な関心を集め、他国における政策モデルとしてイニシアチブを取ることができるでしょう。

悪い社会的影響:社会・家庭での混乱

 上述した令和6年5月25日吉村知事のXでのポストより、現在の吉村知事の考えは、子供を持つ保護者の投票数を子供の数分足すのではなく、あくまで子供自身に投票権を与え、子供が投票権を扱えない幼少期には保護者が代行するという形です。
 ということは、その投票には子供の意思ではなく親の意思が反映されたり、不正投票や投票操作のリスクが増大したりする恐れがあります。

 また、家庭内の政治的な分断が起きないとも限りません。
 子供自身が政治について学んで独自の考えを持つようになると、場合によっては保護者と政治的な意見対立によって、家庭内で意見衝突、果ては家族関係の悪化などに繋がる恐れがあります。
 もしくは、保護者という立場を利用して親の政治的意見が優先されることで、子供の自主的な政治参加意識が損なわれる可能性があります。すると、子供の将来的な政治参加意欲が低下し、成人後も政治的無関心が続く懸念があります。

『0歳児選挙権』の今後の展望:選挙結果によっては?

現状のままでは実現は難しい……?

けれど、次の衆議院総選挙の結果次第では流れが変わるかも!?

すすき
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「様々な課題があり、慎重に検討すべき」
「子供のいない方は1票、子供のいる方は代理として複数回投票できることになる」
「親が必ずしも子供のことを考えて投票するとは限らないことを、どのように評価するのか」

令和6(2024)年5月17日FNNプライムオンラインより

 このコメントは岸田首相が令和6(2024)年5月17日の参議院本会議で答弁したものですが、かなりの難色を示しているように見えます。他国でも議論の末に否決されているわけですから、この反応も当然と言えるでしょう。

 また、世間の関心もそこまで高いとは言えません。次のグラフを見て下さい。

 これはGoogle Trendsで『0歳児選挙権』を調べた結果です。縦軸は検索件数ではなく、相対的な人気の高さを示しており、「100」が最も高いです。
 グラフを見てみると、この提案のニュースが出た当初はかなりの関心を集めていますが、「これから衆議院総選挙の公約に入れていく」という話でしたので、続く詳細な説明がなく、世間の関心は一過性のものになっています。

 しかし、これが衆議院総選挙を経ると流れが変わってくるかもしれません。
 現在の衆議院議員の任期は令和7(2025)年10月30日までですので、遠からず、この提案が再び話題に上がることは間違いないでしょう。令和6(2024)年5月13日時点での日本維新の会の支持率は4.5%で存在感が高いとは言えませんが、次の総選挙で議席数を増やすのであれば、この提案を無視できなくなる可能性もあります。

個人的には導入されてほしい!!

ただ法整備は相当に時間がかかると思います。

すすき
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 導入には憲法改正も含めてかなりの困難が伴うことが予想されますし、私自身、この記事を書いていてかなりのデメリットや悪影響の可能性があるなと思いました。一気に改革を行おうとすることには危険を伴います。世界で初めての試みですから、どんな問題が発生するかも分かりません。

 しかし、他にこの超少子化超高齢化の現状を打開できる案はあるのでしょうか?現在の若年層の人口が少ないのは若年層の自業自得ではなく、それより上の世代で子供が生まれなかったのが直接の原因です(若年層の投票率が低くて「シルバー民主主義」になっているのは自業自得ですが…)。
 上の世代がその責任を全うして次世代に繋がる施策をせず、「逃げ切り勝ち」を狙うというのであれば、子育て世帯・若年層の票数を増やすことはアファーマティブアクションや「合理的な区別」と言えるのではないでしょうか?

 「国家の三要素」とは「主権・領域・国民」です。経済力の維持・発展の上でも必要ですが、国民人口の維持は日本という国家を維持していく上で不可欠のものです。「少子高齢化」の問題は何十年も議題に上がりながら、全く解決策が見いだされずに日本の人口減少は始まってしまいました。そうなると既存の視点では解決ができないということです。

 イノベーションはそれまでの「できるわけがない」から生まれます。みんなが知恵を出して、良いものができあがることを願ってやみません。

 ここまで読んで頂き、ありがとうございました!!
 是非みなさんのお考えをコメントにお書き下さい。私も不勉強のため、話に拙いところも多いと思います。抜けている論点などあれば、ご指摘頂けると幸いです。

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高校社会科
雑記ブログを始めました。ニュースや書評をまとめながら、日本史や世界史の解説をしています。
かなり時間はかかると思いますが、ジグソー法やHRの教案、哲学についてのまとめ記事なども作成予定です。

そのうちYoutubeで動画も公開しようと思っています。
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